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メキシコの物語
建国 犠牲 王子ネザフアルコトヨルの物語 ある多情な王妃の話
捕虜となった勇士 パパンチンの復活
捕虜となった勇士
トラスカラ人 Tlascalans とメキシコ皇帝モンテズマ Montezuma 軍との戦いがあって、負けたトラスカラの戦士トラルフイコレ Tlalhuicole が捕虜になりました。
トラルフイコレは名を聞いただけで震え上がるほどの勇士と知られていたので、メキシコ軍は計略でもって生け捕りにしたのですが、そんなわけで彼は籠に入れられメキシコの町に送られたのです。
皇帝モンテズマはトラルフイコレの勇名に感服していたので、すぐさま彼を自由にし、様々な財宝を与え、あまつさえもし帰りたいなら祖国へ戻ってもいいよ、といいました。
しかしトラルフイコレは、
「一度捕虜となった身がおめおめと祖国へ帰れるものか。いにしえの慣習に従い、神のぎせいにして頂きたい」
しかしモンテズマは、それはちょっとー、勿体ないなー、と思い、彼を生かしておいたのでした。
そんなとき、メキシコとタラスカ人 Tarascans の間に戦が起こりました。
モンテズマがトラルフイコレに、出兵して欲しい旨お願いすると、トラルフイコレは、「委細承知」とアステカ皇帝の兵を率い、タラスカ人を打ち破って莫大な財宝と捕虜を持ち帰りました。
メキシコの人々はトラルフイコレを褒め称え、皇帝は「どうかメキシコの人間になってくれ」といいました。
しかし彼は、故国に対し反逆はできないと断ります。
ならばトラスカラへ帰国すれば、と勧めるも、
「生き恥を終わらせて欲しい。神の犠牲にして頂きたい」
そう頑なにいうばかり。
皇帝は彼の心意気にうたれ、ついにその申し出を受け入れることにしたのでした。
皇帝は家来たちに向かっていいました。
「トラルフイコレをテマラカトル Temalacatl へ括り付けよ。勇士の死に場として、これ以上に相応しいものはあるまい」
テマラカトルとは、捕虜を神への捧げものにするときにその台座となる石のことです。
家来たちは勇士の死に涙し、皇帝は彼の死を華やかにすべく、御前試合を開催することに決めました。
トラルフイコレは勇猛果敢に振る舞いました。
彼は試合の相手を誰構わず斬って回り、アステカの名高い戦士たち八人を倒し二〇人にも傷を負わせた後、己も傷を負い倒れました。
アステカの僧侶たちは、倒れたトラルフイコレをウィツィロポチトリの祭壇の犠牲の石テマラカトルに運びます。
そしてトラルフイコレを殺し、その心臓を神に捧げたのでした。
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・お言葉に甘えて国に帰ればいいのにねー、というのは現代の感覚。
パパンチンの復活
皇帝モンテズマ Montezuma 二世の妹にパパンチン Papantzin という名の娘がおりまして、彼女はトラテルルコ Tlatelulco の領主に嫁ぎました。
しかしながらパパンチンは早逝してしまいます。
皇帝は非常に悲しみ、多数の重臣と共に妹を見送りました。
そしてパパンチンの遺骸は、皇帝の宮殿の下、地中の広間に安置され、入り口は石の蓋で閉じられたのでした。
さて、翌日明け方。
皇帝の子が歩いていると、浴場のそばに立つパパンチンに遭遇しました。
パパンチンは子供に頼み事をしました。
「あなたの先生を呼んできて下さいな」
それで皇帝の子は先生を探し、「パパンチン叔母さまが来て下さいとおっしゃっているのよ」と彼女を促します(先生は女性です)。
先生は、それを子供のいたずらだと思いました。しかし子供は真面目に、
「本当なのよ。パパンチン叔母さまは浴場のそばに立っているのよ」
そう繰り返します。
根負けした先生が子供に付いて行くと、はたしてそこには、皇妹パパンチンがいて、こちらをじっと見つめているのでした。
そしてそれを見た先生が、恐ろしさの余り倒れてしまったのも、無理のないことでした(なにしろ先生は女性でしたので)。
皇帝の子供は慌てて、皇妃である母のもとに駆けていきました。
「お母さま大変です。先生が倒れてしまったのよ」
お体の具合でも悪いのですか、と皇妃が尋ねると、
「具合は悪くないのよ。パパンチン叔母さまが先生を連れてきて下さいとおっしゃったので連れて行ったら、先生は倒れてしまったのよ」
皇妃はびっくりして、付き人二人を引き連れ浴場付近まで行ってみます。
するとそこにはやっぱり皇妹パパンチンがいて、階段に腰を降ろしてこちらを見ているのでした。
皇妃は引き返そうとしますが、それより先にパパンチンが声を発します。
「そんなに恐ろしがらないで下さいな。お願いがあるのです。お兄さまを呼んできて下さいな」
皇妃の知らせに、皇帝モンテズマ二世は家来たちを伴ってパパンチンのもとにやってきました。
「パパンチン、お前は本当にわたしの妹のパパンチンなのですか。妹の姿を偽る悪魔ではないのですか」
皇帝がそう尋ねると、パパンチンは「いいえ悪魔ではありません。わたくしは本物のパンチンです」と答えます。
ならばなにようがあって甦ってきたのか、皇帝が更に尋ねると、パパンチンは大きく息を吐きました。
「お兄さまにお話ししなければならないことがあるのです。
お兄さま、どうかわたくしの話をよく聞いて下さい。
わたくしは確かに死んで、地下の広間に葬られました。
しかし、わたしたちの先祖の方々が、大切なことをお兄さまにお知らせするために、わたくしを死者の世界からこの世に送り帰したのです。
わたくし、死んで間もなく、広い谷間に立っていることに気付きました。高い山々に囲まれたそこは、真ん中に一本の道があって、それが更に沢山の小道に分かれておりました。
そんな場所の、河のそばに、一人の若者が立っていたのです。
若者の纏う長い衣には金剛石がひとつ付いていて、それは太陽のように煌めいておりました。額には十字の印をつけ、虹のように美しい翼を持った若者でした。
彼はわたしの手を取っていうのです。
お前はまだこの河を渡る時を迎えていないよ。
そしてわたしを連れ、広い谷を歩き出したのです。
死んだ者の骨が散らばるそれは怖ろしい景色の中を、わたしの手を引いて歩いたのです。
暫く歩いていると、黒い人たちに会いました。
黒い人たちは皆頭に角を生やし、鹿のような脚をしていました。彼らは家を拵えているようでした。
更に行くと、沢山の船が河に浮かんでいて、大勢の人が乗っているのが見えました。わたしとはまるで異なった服装で、灰色の目に赤い顔をして、頭には被り物をし手にはいろいろな旗を持っておりました。
若者は、ここにいるのは太陽の子だといいました。
そして、お前はまだ死の河を渡ってはいけない、生き続け様々な出来事を見なさい、この者達が伝える新しい信仰と、それがもたらす恵みを受けるのです。それは神の思し召しなのです、といいました。
わたしは、散らばっていた骨について尋ねました。
若者は、あれは不信心で不幸な者達で、いつまでも苦しみ続けるのです、といいました。
わたしは、黒い人たちについて尋ねました。
若者は、太陽のこと戦って死すべき者達の住まいを建てているのです、といいました。
それから、お別れの時だ、といいました。
パパンチン、お前は人の世に戻り、新しい信仰の素晴らしさを皆に告げなさい。
そういって、若者は立ち去ったのでした」
パパンチンの話を聞いた皇帝モンテズマ二世は、心を乱し己の部屋に戻りました。
そして長い間そこに閉じこもり、憂鬱な思いに悩まされたのでした。
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・その後、伝来したキリスト教に、真っ先に帰依して洗礼を受けたのは皇妹パパンチンであったという。
符丁が合いすぎて誠に胡散臭いですね。
・ところで倒れた女先生はどうしたのか気になるんですが。
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